あるカップルの話

大学を出て始めて一人暮らしをした時のマンションは、私には分不相応な物件だった。私の住む一階はシングル向けの間取りで、二階から上はシングル三部屋分の大きさのファミリー向け。浅築で駅に近く、おシャレな外装で家賃もそれなりだった。多少無理してもカッコイイ部屋に住みたかったのだ。
 念願の一人暮らしに舞い上がっていた私は、郷土の名物持参でまわりの部屋へ挨拶に行った。左右の部屋の住人はどちらも若い男で、私の訪問に対して迷惑そうな様子を隠さなかった。都会の人間の冷たさに少し落ち込んだ私だったが、普通の家族なら一応の近所つきあいをしてくれるだろうと、続けて上の階の部屋へ挨拶に行った。何と、その部屋の住人は私よりも若いカップルだった。
 気持ちよく挨拶を済ませ、その夜にはお礼にと食事にも招待された。まだ学生にも見える二人は互いにフリーターで、家賃を折半してこの部屋に住んでいるらしい。先にも書いたが、シングル向けの部屋でもそれなりの値段のマンションだ。普通のアルバイトの稼ぎでは家賃だけで消えてしまうだろう。実際に、二人の生活はとても質素なようだった。このカップルが喧嘩別れしたらどうなるのだろう。とその時から考えていた。
 一年くらい経った頃からカップルの女の方を見かけることがなくなり、程なくして男の方が訪ねてきた。引越しの挨拶に来たとの事だった。一人で来た事でなんとなく「ああ別れてしまったんだな」と考えたが、意外にも彼に落ち込んでいる様子は見られなかった。次はどんなところに引っ越すのかと聞いてみたところ、このマンションの倍くらいの家賃だという。驚いた私は、また彼女と一緒に住むのか?別れたのではないのか?と聞いてしまった。彼は笑いながら答えた。
 実は彼らは恋人同士ではなく、ある種のビジネスパートナーだったらしい。彼は男同士の同居を装い、彼女は女同士の同居を装いながら、あえて家賃の高い都心の部屋に住み、各々でお金持ちの恋人を探していたのだという。先に彼女が会社社長の恋人をつくり、彼氏の方もアテができたので、この契約は解消となったのだ。彼は今後の生活が楽しみでたまらないと言って去っていった。
 結局、毎月の家賃が負担となり、私は最初の更新でそのマンションを出た。その後も引越しの度に部屋のランクは下がり、生活も地味になっている。収入から考えるともう少し良い部屋に住んでもいいかもしれないが、例のカップルのようなチャレンジをする勇気はない。昔不動産屋で言われた、部屋のランクで人の価値が決まるという話も、あながち間違っていないのかもしれない。

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